領域代表挨拶

領域代表 野澤 昌文
(東京都立大学)

皆さま、学術変革領域研究(B)令和4~6年度『性染色体サイクル:性染色体の入れ替わりを基軸として解明する性の消滅回避機構(略称:性染色体サイクル)』のホームページへようこそ!

この研究領域の目的は、生物がY染色体やW染色体の退化を乗り越えて『性の消滅を回避してきた仕組み』を『性染色体サイクル』という新しい観点から明らかにすることです。

性染色体は代表的な性決定様式のひとつであり、雄ヘテロ型のXY染色体と雌ヘテロ型のZW染色体が多くの種でみられます。性染色体は環境によらず性比を一定に保つことができ、種の存続に重要な役割をもちます。しかし、常染色体から性染色体が生じると、一方の性(XY型ではオス、ZW型ではメス)に1本しか存在しないY染色体やW染色体は、性決定維持のために組換えを行わなくなります。すると、有害変異を除去できなくなったこれらの染色体は短小化し、多くの遺伝子は消失する運命にあるというわけです。実際、現在のヒトのY染色体にはもともと存在していた遺伝子の約3%しか残っておらず、Y染色体は約1,400万年後に消失すると予測している研究者もいます。

このように、従来、性染色体の進化は、『常染色体⇒性染色体⇒退化』という一方向で捉えられてきました。退化の結果、例えば哺乳類のY染色体には性決定遺伝子を含む少数の遺伝子が共通して存在することから、Y染色体やW染色体は最終的にごく少数の性関連遺伝子だけを保持し続けることで性を維持するとする『進化の袋小路仮説』が支持されています。しかし、近年のゲノム科学の急速な発展に伴い、多様な生物の性染色体の有様が明らかになるにつれ、Y染色体を失ったネズミや、性染色体と常染色体を頻繁に入れ替えるカエルのように、袋小路を抜け出しているにも関わらず、安定に性を維持する種も存在することが明らかになってきました。これは、『進化の袋小路仮説』では性の消滅回避を完全には理解できないことを意味します。そこで我々は、退化の後に性染色体を新たなものに入れ替えて性の消滅を回避し安定して性を維持する機構、すなわち『性染色体サイクル』として捉える必要があるのではないかと考えるようになりました。この視点に立ってみると、性染色体の入れ替わりだけでなく、『性染色体サイクル』の様々な段階で『性の消滅回避』の存在を示唆する生物が浮かび上がってきたのです。そこで、これらの生物を精力的に研究している5名の研究者が集結し、『性染色体サイクル』を基軸として『性の消滅回避機構の分子基盤と進化過程』を総合的に理解するための領域を立ち上げました。

今後、このウェブサイトを通じて、我々の研究成果を随時アップデートしていく予定です。皆さま、どうかご期待ください。

計画班のご紹介

A01:桂・井川班「入れ替わり段階の性染色体」
XY/ZW染色体が頻繁に入れ替わる両生類の性染色体から迫る性の消滅回避機構

B01:風間班「分化段階の性染色体」
起源の新しい植物性染色体に性の消滅回避の兆候を見出す

C01:阿部班「退化段階の性染色体」
退化した性染色体に残された機能は性の消滅危機から生物を救うのか?

D01:野澤班「消失段階の性染色体」
Y染色体を失ったヒゲジロショウジョウバエはいかにして性の消滅を回避したのか?